60スター西洋占星術
日本語版
BY TOKYO-TANUKI💛
柈 (ha-n)60スター西洋占星術
" 同志ラヴレンチイ" ①
第一章 紙
一九四〇年一月。
モスクワには雪が降っていた。
雪は音を消した。
音が消えると、人は紙の音だけを聞くようになる。
クレムリンの執務室にも雪は降らない。
それでも、窓の向こうの白さは部屋へ入り込み、パイプの煙まで白く見せていた。
スターリンは一枚の紙を机へ置いた。
ベリヤは黙って立っていた。
二人とも、しばらく何も言わなかった。
時計だけが、規則正しく時を刻んでいる。
スターリンは紙を指先で押した。
「同志ラヴレンチイ。」
「はい。」
「グルジアで妙な動きがある。」
返事はない。
「誰かが反革命を始めようとしている。」
「逮捕しますか。」
「いや。」
スターリンは首を横へ振った。
「まだ早い。」
沈黙。
パイプの灰が一つ落ちた。
スターリンは鉛筆を取った。
ゆっくりと紙へ書き始める。
1+((1+0)+(1+1))×((1+0)+(1+0))=7
書き終えると、鉛筆を置いた。
「7だ。」
ベリヤは式を眺めた。
「7です。」
「それだけか。」
「……はい。」
スターリンは何も言わない。
窓の外では雪が降り続いている。
再び鉛筆を取る。
今度は少し大きく書いた。
1+((2)+(2))×((2)+(1.5))=15
その下へ、
15 = 5 + 5 + 5
とだけ記した。
ベリヤは目を細めた。
15。
5。
5。
5。
紙の上では、それ以上何も起こらない。
「同志スターリン。」
「何だ。」
「意味が……。」
スターリンはその言葉を最後まで聞かなかった。
「ラヴレンチイ。」
「はい。」
「答えは紙にはない。」
ベリヤは紙を見た。
「では、どこに。」
スターリンは窓の外を見ていた。
雪は相変わらず降っている。
「人間だ。」
部屋はまた静かになった。
ベリヤは紙を持ち上げる。
数字は乾いていた。
しかし鉛筆の跡だけは、生々しく光っていた。
スターリンは低い声で言った。
「国外へ目を向けろ。」
「国外……。」
「7を党員番号とする男がいる。」
その一言だけだった。
ベリヤは何も尋ねなかった。
尋ねても答えは返ってこないことを知っていた。
紙を鞄へしまう。
敬礼する。
扉へ向かう。
「ラヴレンチイ。」
ベリヤは振り返る。
スターリンはまだ窓を見ていた。
「もう一つ。」
「はい。」
「同じような並びでも。」
そこで言葉が切れた。
パイプの灰が落ちる。
長い沈黙。
ようやくスターリンは続けた。
「……生まれ方が違う。」
それだけだった。
ベリヤは頷いた。
だが、理解はしていなかった。
廊下へ出る。
扉が閉まる。
静かな廊下だった。
雪の音は聞こえない。
彼は鞄の中の紙を取り出し、もう一度だけ眺めた。
7。
15。
5、5、5。
どこにも答えは書かれていない。
紙には、ただ括弧が並んでいるだけだった。
その夜。
ベリヤは眠れなかった。
夢の中でも、
括弧だけが静かに揺れていた。
(つづく)
Tanu-chan💓 TOKYO-TANUKI💛

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